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仙台高等裁判所 昭和50年(行コ)5号 判決 1981年4月27日

宮城県気仙沼市魚町二丁目三番一号

控訴人

高山春雄

右訴訟代理人弁護士

青木正芳

右訴訟復代理人弁護士

石神均

佐藤正明

同県同市古町三丁目四番五号

被控訴人

気仙沼税務署長

千葉普

右訴訟代理人弁護士

伊藤俊郎

被控訴人指定代理人訟務専門官

及川峻

同大蔵事務官

守木英男

馬場義継

同大蔵事務官

日野義人

右当事者間の所得税更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人の(一)昭和四〇年所得税につき昭和四二年九月二一日付でなした原判決添付別表第一記載の更正処分のうち課税所得金額六三三、五〇〇円、所得税額八九、〇〇〇円をそれぞれ超える部分、(二)昭和四一年分所得税につき前同日でなした原判決添付別表第二記載の再更正処分のうち、課税所得金額二、三三五、七〇〇円、所得税額五四九、〇六〇円をそれぞれ超える部分はいずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加するほかは原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。

(主張付加分)

一  控訴人

1  所得税法一五六条は、推計課税の方法として三種の方法を明記しているが、これは例示と解されている。一般に判例上用いられる方法に(1)資産増減法(2)比率法(3)単位当り額法(4)消費高法が挙げられる。

ここにいう比率法とは、事業上の収入、支出又は生産量、販売量その他の取扱数量に対する特定比率を適用して所得金額あるいはその前提をなす売上合計額、仕入合計額を推計する方法である。

すなわち、すでに判明している間接事実と収入、利益がいかなる比例関係にあるかを基礎として、その間接事実とその比率を用いて収入金額または利益金額を推計する方法である。その例としては、所得標準率による方法があり、これが原則的方法である。

控訴人経営のパチンコ店においては、仕入、経費がともに明確であり、その実額を計算することができた。

それ故、パチンコ店の所得金額の算出についてもこの事実を前提として、控訴人経営にかかるバーの所得算定方法と同様に、類似同業者の平均的所得率を適用して算出すべきである。

2  控訴人は、被控訴人が認定した所得額を争うものであつて、かりに認定された所得額が正当であるとした場合には、これに対する所得税の算出過程が被控訴人主張のとおりとなることは認めるものである。

一  被控訴人

所得標準率による推計方法が原則的推計方法である旨の控訴人の主張は争う。

控訴人のパチンコ遊技場経営にかかる事業所得金額は、収入金額については控訴人の記帳の欠如、脱漏部分の売上金額を、それが預け入れられた銀行預金から認定したものである。売上原価及び一般経費については、取引先の調査を行つてその実額を把握し、その結果この額については、控訴人の記帳額を超えて、控訴人に有利に認定したものであり、特別経費とともに個別実額による方法をとつたものである。

また、控訴人のパー経営にかかる所得金額は、収入金額については、控訴人の記録の欠如及び脱漏部分の売上金額を、右売上金額が預け入れられた銀行預金から認定したものであり、所得金額算定過程のうち売上原価及び一般経費については、控訴人にこれらを記録した帳簿書類が一切なかつたことから、類似同業者の平均所得率を適用して算定し、特別経費については個別実額によつたものである。

控訴人にかかる所得計算の方法は以上述べたとおりであつて、それぞれの経営の実態に応じて所得金額を算定したものであり、パチンコ遊技場分の所得金額は、控訴人において記帳のある部分はそれを基とし、記帳のないもの、記帳があつても不備の部分は、調査によつて把握した実額を積上げて、それぞれ算定したものであり、この算定方法は「類似店舗の差益率・所得率を用いる間接事実を考慮した推計」に比し、より合理性のあることは疑いのないところである。

したがつて、控訴人主張のような不合理であるとするいわれはないのであり、また、パチンコ経営分とパー経営分とを同一の方法で推計すべきである旨の控訴人の主張も根拠を欠くものである。

(証拠付加分)

控訴代理人は、甲第一三号証を提出し、当審証人高山キミエの証言(第一、二回)を援用し、乙第一一六、第一一七号証の成立は認めると述べ、被控訴代理人は乙第一一六、第一一七号証を提出し、甲第一三号証の成立は認める、と述べた。

理由

一  当裁判所もまた被控訴人のなした本件更正処分及び再更正処分は適法であつて、右処分の取消を求める控訴人の本訴各請求は、理由なしとしてこれを棄却すべきものと認定判断するものであるが、その理由は次に付加訂正するほかは原判決理由に説示されているところと同一であるからこれを引用する。

(訂正部分)

(一)  原判決第三七ページ二行目に「同年七月五日」とあるのを、「同年七月三日」と改める。

(二)  同第三八ページ末行及び同第三九ページ三行目に各「大学メート」とあるのを、それぞれ「大学ノート」と改める。

(三)  同第五七ページ六行目に「乙第一四号証」とあるのを「乙第一四号証及び同証人の証言」と改める。

(四)  同第五九ページ末行に「成立に争いのない乙第一五号証の一ないし三、」とあるのを「成立に争いのない乙第一五号証の一ないし三、第一六号証」と改める。

(五)  同第六二ページ五行目冒頭から六行目にかけて「前認定の事実および前出乙第二号証の二、第一一、第一二号証、証人鈴木洋一の証言によつて原本の存在とその成立を認める乙第六七、六八号証によれば」とあるのを、「前記認定事実及び前出乙第二号証の二、第一一、第一二号証、成立に争いのない乙第一一六号証、原審証人鈴木洋一の証言により原本の存在及び成立を認めうる乙第六七、第六八号証、原審証人堀内正雄の証言により原本の存在及び成立を認めうる乙第一一五号証及び弁論の全趣旨によれば」と改める。

(付加部分)

(一)  原判決第六六ページ一行目の次に「(六)成立に争いのない甲第一三号証、当審証人高山キミエの証言(第一、二回)によつても以上の認定を左右するに足りない。

(七)控訴人は、パチンコ営業にかかる事業所得の算定につき控訴人の同営業における仕入、経費はいずれも正確に把握できるから、控訴人経営のバーにかかる所得算定方法と同様に、類似同業者の平均的所得率等を適用すべきである旨主張するけれども、控訴人のバー営業については、収入額一、五五六、六四〇円が把握できたものの売上原価、一般経費の帳簿がなかつたところから、実額による「算出所得額」の算定ができないため、右収入に算出所得率(四八パーセント)を適用して算出所得額として金七四五、二三六円を算定した上、これより実額の特別経費を控除して、差引事業所得(マイナス金四六、八六八円)を算出したもので、右推計方法を用いたことには合理性があるといいうべく、これに対し、控訴人のパチンコ営業に関しては、収入については、銀行預金のうち、関係人の供述、預け入れ日時、額、預金通帳(集金口座)の記載、訂正状況より、売上金額による預金と認められるものを売上金額と認定し、売上原価、一般経費は、控訴人の取引先の調査によつて実額を把握し、特別経費もまた実額を把握し得たものであることはすでに認定したとおりであるから、その算出にあたり、ことさら算出所得率等の比率を適用する推計方法を用うるのが相当であるなどということはできない。

なお、被控訴人のした昭和四〇年分所得税の更正処分は、控訴人の総所得金額を金五、九八七、〇〇〇円とする認定に基づくものであるが、控訴人の同年度の実際総所得金額はこれを上回る金七、四二一、二七〇円であること、被控訴人の昭和四一年分所得税の再更正処分は、控訴人の総所得金額を一一、三九九、八五五円とする認定に基づくものであるが、控訴人の同年度における実際総所得金額はこれを上回る金一三、〇一九、六三〇円であることは、すでに認定したとおりであつて、本件更正処分及び再更正処分における所得金額の算定は控え目の算定であることが明らかである。」を加える。

(二)  同第六六ページ五行目の次に「本件更正処分及び再更正処分において認定された所得金額を前提とするときは、本件更正処分及び再更正処分における所得税額、重加算税額の算出過程が適法であることは控訴人においてこれを認めるところである。」を加える。

二  しからば、本件更正処分及び再更正処分はいずれも適法であつて、その取消を求める控訴人の本訴請求は、理由がないからこれを棄却すべきである。

これと同旨に出て、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小木曽競 裁判官 井野場秀臣 裁判官田口祐三は転任のため署名捺印をすることができない。裁判長裁判官 小木曽競)

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